1 目的
                            
                                 このマニュアルは全国に散在する石橋が何らかの理由で解体される場合、
                                現状のまま、確実に未来に引き渡されるための解体保存の方法を示す。
                            
                         
                        
                            2 石橋を守る理由
                            
                                 ヨーロッパやアジア大陸には千年以上も前に造られ、現在でも使用されて
                                いる石橋が数多く残されている。人類の土木技術文化を今に伝えるものと
                                して、極めて貴重な財産である理由を、下に述べる。
                            
                            
                                - 
                                現代の橋梁の耐用年数が百年程度に対し、石橋はその十倍以上の実績
                                を持つ。架設費用を二倍と考えても石橋の一生にかかる費用は少なく
                                とも五分の一以下であること。
                                
 
                                - 
                                現実には現代の橋梁(コンクリート・鉄骨など)は、複雑な工法が多く、
                                その熟練度により計画された耐用年数を大きく下廻って破壊の憂き目に
                                遭うものが多いこと。
                                
 
                                - 
                                石橋はその用途を終えて解体廃棄される場合でも産業廃棄物ではなく、
                                リユース・リサイクルを重ねることができ、自然に還っていく自然物で
                                あること。
                                
 
                                - 
                                自然素材を、これ以上の簡素さを求められないまでに極めて高度に応用
                                した構造物で、技術的に重要な価値を持つこと。
                                
 
                                - 
                                現代の常識や先入観で石橋を観察した場合、建設の背景にある重要な
                                文化や自然環境との共存の工夫など、先人の英知の多くを見落として
                                しまう恐れがあること。
                                
 
                                - 
                                他の多くの石の世界遺産と比較した場合、人類同士・人類と自然環境
                                との共存共栄を意図したものが多く、今後の人類のインフラ整備の手本
                                として見つめなおし、未来に引き継ぐべき、重要な地球財産であること。
                                
 
                            
                            
                                 以上、土木技術面から見ただけでも現代の私たちが充分理解しているとは
                                思えない事柄が多すぎる。可能な限り現状のまま未来に引渡し、重要性の
                                認識を重ね、人類と地球の進むべき未来への道標となるべく保存する。
                            
                         
                        
                            3 適用範囲
                            
                                 日本国内の石橋で、アーチ(輪石)を持つもの。
                            
                         
                        
                            
                                
4 解体の手順
                                
                                     下記の解体手順を上から順にすべてチェックすることで、復元に向けて、
                                    取り返しのつかない大きなミスを防ぐことができる。該当しないと思わ
                                    れる項目も必ず確認することが望ましい。
                                
                            
                         
                        
                            石造アーチ橋の解体手順書
                            1 連絡
                            
                                - 
                                 石橋解体要求の発生、または可能性を発見した場合、地区の文化財保護
                                委員会に連絡する。
                                
 
                            
                            2 準備
                            
                                - 
                                    (1) 文化財保護委員会の担当者決定後、調査の必要性の有無判断
                                
 
                                - 
                                    (2) 対応組織の要否判断、事前調査者の決定、事前調査実施
                                
 
                            
                            3 事前調査
                            
                                - (1) 一般事項
 
                                
                                    - 
                                        関連資料・関係者・要求・要望など
                                    
 
                                    - 
                                        管理者及びその責任範囲の明確化
                                    
 
                                    - 
                                        解体を行う理由
                                    
 
                                    - 
                                        現地復元は可能か
                                    
 
                                    - 
                                        その他
                                    
 
                                
                                - (2) 技術事項
 
                                
                                    - 
                                        過去に改造・修理・移築された形跡
                                    
 
                                    - 
                                        変形(クラック・隙間・移動など)
                                    
 
                                    - 
                                        植物の繁茂状況、根の侵入状況
                                    
 
                                    - 
                                        石材の強度、風化度合
                                    
 
                                    - 
                                        現況の写真撮影(すべての部位)
                                    
 
                                
                            
                            4 検討
                            
                                - 
                                    解体を行う理由の妥当性
                                
 
                                - 
                                    移築に値する価値・強度の判断
                                
 
                                - 
                                    特殊事情の潜在
                                
 
                                - 
                                    関係官庁への諸届けの必要性
                                
 
                                - 
                                    解体許可責任者の明確化
                                
 
                                - 
                                    費用負担者・責任者の明確化
                                
 
                                - 
                                    復元までの解体材保管場所の確保
                                
 
                                - 
                                    体計画者・施工者の選定(同一でも可)
                                
 
                            
                            5 その他
                            6 計画説明(解体計画者へ)
                            
                                - 
                                    「マニュアル」への質疑応答(事前熟読:本マニュアル全編)
                                
 
                                - 
                                    「石橋を守る理由」の認識度の確認
                                
 
                                - 
                                    「マニュアル」以外の特殊要件の検討
                                
 
                                - 
                                    「指示書作成基準」の説明 (設計書作成基準)
                                
 
                                - 
                                    解体工程・計画書納期の説明
                                
 
                                - 
                                    危険予測・遺漏事項の検討
                                
 
                                - 
                                    質疑応答
                                
 
                            
                            7 解体指示書作成
                            
                                - 
                                    「指示書作成基準」に基づく計画作成
                                
 
                                - 
                                    作成途中で発生する変更事項の整合
                                
 
                                - 
                                    指示書の納品
                                
 
                            
                            8 指示書の審査
                            
                                - 
                                    マニュアルとの不適合の審査
                                
 
                                - 
                                    不適合があれば是正処置の上、承認
                                
 
                            
                            9 現場説明(解体施工者へ):(設計者と施工社が同一の場合は省略)
                            
                                - 
                                    「石橋を守る理由」の認識度の確認
                                
 
                                - 
                                    「設計書」の説明
                                
 
                                - 
                                    「設計書」への質疑応答(事前熟読)
                                
 
                                - 
                                    全体工程・施工計画書納期の説明
                                
 
                            
                            10 現場観察による、計画変更の必要性抽出
                            11 危険予測・遺漏事項の検討
                            12 質疑応答
                            13 施工計画作成 (設計者と施工社が同一の場合は省略)
                            
                                - 
                                    「解体設計書」に基づく施工計画書作成
                                
 
                                - 
                                    施工社による施工方法の差異の明示
                                
 
                                - 
                                    各都道府県の土木施工管理基準による
                                
 
                            
                            14 計画書審査(設計者と施工社が同一の場合は省略)
                            
                                - 
                                    「解体設計書」との不適合の審査
                                
 
                                - 
                                    不適合があれば是正処置の上、承認
                                
 
                                - 
                                    着工許可
                                
 
                            
                            15 着工
                            
                                - 
                                    「施工計画書」により実施
                                
 
                                - 
                                    計画外自称があれば監督員へ報告・是正
                                
 
                                - 
                                    保管場所管理
                                
 
                            
                         
                        
                            指示書作成基準
                            必須項目・実施手順
                            
                                目的: 解体されようとする石橋を確実に復元可能な状態に解体するための、
                                設計必須項目・実施手順について定める。
                            
                            1 周辺物の除去
                            
                                - 
                                    修理等でコンクリートや鉄骨等が付帯している場合、石橋に影響を
                                    与えない解体方法の考慮。
                                
 
                                - 
                                    周辺物を除去するにあたり石橋への影響が避けられない場合、先行
                                    支保工の仮設の考慮。
                                
 
                                - 
                                    解体途中で不明な工作物や事象があった場合の即時報告(監督員へ)
                                    の義務の明示。
                                
 
                            
                            2 石橋の調査測量
                            
                                - 
                                    現況のすべての部位および全体の写真の撮影整理。
                                
 
                                - 
                                    裸の状態になった石橋を、下記について測量・作図。
                                    (できれば縮尺は1:10か1:20とし、復元時に参照し易い図面
                                    とする。また、石材には凹凸があるので、測定するためのルールが
                                    必要となるが、実績上、凸部を連結した延長上の架空の点を、測定
                                    する場合の基準点とする。)
                                
 
                                - 
                                    全体平面図:周囲の位置関係も含む。
                                
 
                                - 
                                    立面図:上下流2面。個々の石材展開図を含む。
                                
 
                                - 
                                    断面図:左右岸および中央部、計3面。
                                
 
                                - 
                                    輪石展開図:アーチの内側の精密な実測図。根石四端対角線測定。
                                
 
                                - 
                                    径間と拱矢:上下流共  (拱矢:根石の基準点から対岸に糸を張り、
                                    その中央から要石中央の下端までの垂直距離)
                                
 
                                - 
                                    根石の位置:上下流端および左右岸の根石の位置を 測定。高さおよび
                                    対角線。(三次元座標測量を推奨)
                                
 
                                - 
                                    石橋を構成する材料は凹凸があるため、凸部を連結した延長線が交差
                                    する点を測量基準点とすることの明示(重要)。
                                
 
                            
                            3 第一次マーキング
                            
                                - 
                                    石橋を構成するすべての石に、位置・方向などの固有情報を付加する
                                    ために、マーキングを行う。容易に紛失しないよう、また、復元した
                                    場合、完全に撤去できるマーキングの方法を明示する。
                                
 
                                - 
                                    現況で垂直墨を打っておくと復元時に垂直方向が判る。
                                    似たような工夫があれば明記しておく。
                                
 
                            
                            4 支保工仮設
                            
                                 アーチを3cmほど浮かすことのできる木製支保工を設置する。
                                その手順は下記の通り。
                            
                            
                                - 
                                    (1)測量した図面および、過去の支保工事例を参考に支保工を設計
                                    する。
                                
 
                                - 
                                    (2)河床に支持基礎を設置し、油圧ジャッキを並べ、木製の支保工
                                    の下段桁を設置する。
                                
 
                                - 
                                    (3)輪石を受ける梁および束、上下流の接続梁を組み立て、並べ木
                                    を取り付ける。
                                
 
                                - 
                                    (4)並べ木の上と輪石の隙間に、2.5mmベニヤを差込み、ジャ
                                    ッキを上げて輪石に密着固定する。
                                
 
                            
                            5 第一次解体
                            
                                - 
                                    輪石を残して壁石・中詰め石のすべてを撤去する。
                                
 
                                - 
                                    壁石は傷が入らないように慎重に取り外しを行い、運搬車両に積み込
                                    む際にも、荷台に緩衝材を敷くなどの養生を行う。
                                
 
                                - 
                                    中詰め石に規則的な配列があった場合、作業を中断して監督員に報告
                                    し必要であれば測量・マーキングを行う。
                                
 
                                - 
                                    輪石のみが残った状態で、輪石全体を高圧洗浄機で洗い、土砂・浮遊
                                    物を撤去し、輪石の背面にある詰め物、隙間に埋められ輪石を維持し
                                    てきたものなどの調査・記録・保存を行う。
                                
 
                            
                            6 第二次マーキング
                            
                                - 
                                    輪石の背中に、上下流左右岸の位置関係を失わないようなルールを決
                                    め、固有情報をマーキングし、記録する。
                                
 
                                - 
                                    上下流左右岸から写真撮影をしておく。
                                
 
                            
                            7 第二次解体
                            
                                - 
                                    輪石に隙間ができるまで、支保工の油圧ジャッキを均等に注意深く締
                                    め上げる。隙間は、要石の片側に1cmほどでよい。
                                
 
                                - 
                                    要石から順に、左右対称に秩序良く輪石を取り外し、指定地へ運搬し、
                                    順番どおり並べて保管する。
                                
 
                                - 
                                    取り外しには、石材・コンクリート二次品専用のゴムの着いたキャッチ
                                    クランプを用い、石材の損傷を防ぐ。
                                
 
                            
                            8 基礎の確認
                            
                                 根石を撤去したのち、基礎の状況を調査し、石材を使用してあれば、
                                測量・マーキングをして掘りあげる。さらにその下の状況も調査し、
                                支持工の施工の有無を確認する。存在すれば、調査・記録をし、基
                                礎の状況を明確にした資料を作成する。
                            
                            9 解体完了
                            
                                - 
                                    清掃片付けを行い、監督員の検査を経て、次工程に引き渡す。
                                
 
                                - 
                                    支保工は、復元時まで保管する。
                                
 
                                - 
                                    温湿度・植物等による風化予防を行う。
                                
 
                            
                         
                        
                            
                            
                        
                            
                                
                                    
                                        >>> 「日本の石橋を守る会」からのお願い <<<
                                    
                                
                            
                            
                                
                                     このマニュアルを読まれたかたで、改訂すべき事項を発見 された方は、
                                    たいへん手数をおかけしますが、下記までご連絡ご指導いただけますよう、
                                    お願い申し上げます。
                                
                                
                                    熊本県上益城郡山都町千滝222-1 ㈱尾上建設 石橋の係
                                
                                
                                    電話 0967-72-0134 FAX 0967-72-1421